カードビジネス、ポイントビジネス、LCCの広告メディアづくり、サブスク、EC、越境EC、保険、ふるさと納税、民泊、、、と新規事業を10年やってきた(最後には何故か飛行機の装備品調達もした)。その後2018年1月にFrichを創業して、振りかえれば4期目に突入することとなった。 今回、そんな経験値をもとに、スタートアップの視点から大企業が新規事業として保険ビジネスを受け入れるためのハードルを改めて整理してみた。 これからInsurTech に挑もうとする方々が、大企業との連携を考えるときに少しでも参考になれば幸いである。
<大企業が新規事業として保険ビジネスを受け入れるための10のハードル>
課題1
保険特有の考え方が社内で理解されない
逆選択の考えに代表される業界特有の考え方への理解が必要。規制周辺にある「理論的には出来るが、実際は出来ないこと」(ここが理解されにくい)に対する社内での認識合わせが重要。
課題2
保険業法の理解が表面的になりがち
加入者保護の理念が理解されないまま、時としてビジネス面(収益面)が過度に強調される場合がある。その齟齬が事業モデル検討中にしばしば出現することがあり、検討が停滞する場合がある。
課題3
そもそもノウハウのある人が内部にも外部にも少ない
世の中全体として、既存保険商品の販売ノウハウをもっている人は多いが、保険を新たなビジネスとして立ち上げられる人は少ない。大企業であってもスタートアップであってもその例外ではない。
運よく新規事業が立ち上がったとしても、内部にノウハウがなければ、次のうち手を出せないことが多い。
課題4
免許の取得と各種準備に年単位の時間を要する。場合によっては定款変更が必要になる。
免許事業なので開業までの時間と費用がそれなりにかかる。また定款変更が必要になる場合も多く、そこで検討が頓挫することもある。
課題5
アグレッシブな事業会社、コンサバな保険会社の構図がどうしても崩れない
顧客ニーズにフォーカスする事業会社にとって、保険会社が提案する商品はどこかフォーカスがぼやけたものに感じやすい(理由はこちら)。構造上、双方にとってストレスがたまりやすい。
課題6
期待していたオリジナル商品がつくれずに、どうしても既存商品の焼き直しっぽくなってしまう。
保険会社がいかにアグレッシブに引受けるかに応じてオリジナリティが定まる。ここで攻める保険会社ももちろんあるが、蓋をあけると保険金請求が多発して、募集停止なんてことも。過度なアグレッシブさは結局、お客様に迷惑をおかけすることに繋がりかねない。
課題7
オンライン獲得の場合、チェックアウトプロセスに保険を入れ込むのがポイントだが、ハードルが高すぎる。トップダウンでないと厳しい時が多々ある。
チェックアウトプロセスに保険を入れるのは加入者獲得の黄金パターン。だが、責任部署からすると、保険加入は離脱を招く「ノイズ」。売上が落ちたらどうするのだという懸念の方が大きい。よって部門間調整だけで結論を出すのは難しい場合が多い。本業であればあるほどシステム改修コストも高額になりやすく、それなりの予算手当が必要。そのうえ保険募集するために免許取得、定款変更が必要な事態になると、新規事業担当者の心はポキッと折れやすい。
課題8
リアルでやろうとしたとき、現場社員等に募集人資格をとらせて募集品質確保する手間が相当大きい。地道な調整が必要。
こちらも加入者獲得の黄金パターン。ただ、こちらも課題7とほぼ同様の課題がある。しかも、オンラインとは違って人が動くので、マネジメントの課題もとても大きい。
課題9
保険会社が期待した人数が集まらない。双方の熱が冷めていく。
上記を回避するため、まずはミニマムスタートでローンチするのだが、顧客体験がバラバラなのでなかなか加入者が集まらない。数字が出ないと双方の熱量も下がっていくことが多い。
課題10
大企業特有の事情。
ここは大企業あるあるのところ。最後の最後で会社都合により検討が止まるケースもままある。
以上、今まで僕らが苦労してきたことや他人の苦労話などを統合して10のケースをまとめてみた。
個人的に思うのは、保険は、商品や販売に関する情報が多い一方、ビジネスストラクチャーそのものに関する情報がかなり少ないということ。
InsurTechの盛り上がりとともに、そのような情報が徐々に世間にあふれてくるのではないかと期待している。