Frichが手掛けるP2P互助プラットフォームは、保険とは違う共済という分野のサービスでもあります。特に、会社の福利厚生としての共済、あるいはそのビークルとしての「共済会」等には注目していますが、そもそも「共済」や「共済会」というものが具体的によくわからないという声をよく頂戴します。 このシリーズでは、Frichが業務提携している共済会のプロフェッショナル、千葉商科大学会計ファイナンス研究科教授で株式会社労務研究所 代表取締役の可児俊信先生に、共済とは一体何なのか、また共済会という実は古くて新しい仕組みのお話を伺います。
目次
■共済会と福利厚生の違い
__共済会と福利厚生。そのわかりにくい違いについて教えてください。
共済会は、事業主の費用負担で行う福利厚生とは異なり、労使の費用負担で運営されています。また共済会という事業主とは別の組織が運営しています。事業内容に定義はありませんが、わかりやすいところで言えば、慶弔給付を実施している共済会が多いですね。
__慶弔給付というのは、「結婚したらいくらもらえますよ」とか「子どもが生まれたらいくらもらえますよ」とか、そのようなことですよね?
そうです。
__正直、今まで特別意識したことはないのですが、てっきり会社の総務部が福利厚生の一環としてやっているのだと思っていました。
おっしゃるとおり、共済会といっても、事業主(会社)も費用負担していますし、事業主が事務を担っていることもあります。共済会の理事会には事業主側の代表もいて、事務局は会社の一部を借りています。その意味では事業主にとっては福利厚生の一環という整理となるでしょう。
__なるほど。福利厚生という認識については間違っていないんですね。
はい、名称は、共済会のほかに、福祉会、社員会、親睦会などと呼ばれ官公庁では職員互助会という名称が多いです。
__共済会以外の方が、直感的でわかりやすいですね。
■共済会について
__そもそも共済会というものは、いつ頃からあったのでしょうか。
共済会は、今から100年ほど前から始まっています。
__戦前!?
当時は社会保険がなく、企業や官公庁で働く労働者・職員には生活保障がありませんでした。病気やけがになったら、当然医療費の支払いが発生しますし、病気やけがで働けなくなれば収入も途絶え、経済的にも困ります。
__今ほど社会保障が充実していなかったわけですね。
医療費のみならず、住宅や結婚などでお金が必要になっても借りる先もないのです。工場労働者を中心にこのような問題がありました。
__スマホで気軽にお金を融通しあえる現代からするとなかなか想像しがたいですが、それはさぞ困ったでしょうね。
そこで、事業主と労働者・職員がお金を出し合い、ファンドをつくったのが共済会です。
__ファンド!?そういうと急にカッコイイ感じになりますね。
病気やけがの治療費を給付したり、休業時の生活費を給付したり、共済会が低利で融資するといった事業を行いました。相互扶助と呼ばれるものです。
__低利の融資もあったのですね。そうすると今の共済会で慶弔給付が多いのはその名残というわけですね。
戦後になって、社会保険・労働保険が整備され、医療費や休業時の所得補償さらには労災は国がカバーするようになりました。また80年代からは始まる金融緩和によって個人でも融資を受けやすくなりました。こうして共済会の相互扶助の重要性は、戦前と比べ相対的に低下していったのです。
__たしかに。日本の社会保障制度の充実ぶりはよく取り上げられますし、低金利の今あえて低利融資する必要性も薄いですよね。100年前につくった仕組みが機能しにくい時代になっているのですね。
これが共済会の位置づけや役割をわかりにくくしている大きな理由です。現在、相互扶助は、生活保障という目的ではなく、他の共済会員からの喜びの気持ち、哀悼の気持ちを表す役割に変わってきています。
__僕個人の感覚的としても、そのイメージの方が強いですね。
また、健康保険での自己負担3割を共済会でまかなったり、傷病手当金の上乗せで休業補償を行ったりといった社会保険と一体となっている共済会もまだまだあります。
__時代と共に共済会も変化していったのですね。現代の共済会はどうでしょうか。
未婚者が増えたり晩婚化が進むなど、ライフスタイルが多様化していますよね。また人によって通過するライフイベントもさまざまです。かつて従業員・職員は、世帯主は男性であり大企業や官公庁では終身勤めるのが前提でした。結婚して世帯を持ち、子どもの誕生、入学、そして住宅の購入といったライフイベントも同じように経験していました。それで慶弔給付も結婚祝金、出産祝金、入学祝金といったもので全員に同じように給付されていたのです。
__「わかりやすい時代」だったわけですね。
しかし働く人の多様化に伴い、これらの慶弔給付を全く受けられないという共済会員が増え、「不公平」という声も起きているんです。こうした環境変化に共済会が十分対応できていないことが、「共済会って何だろう」という疑問の大きな原因でしょう。
■相互扶助について
「共済会は今後どうすればよいのか」というのがこの連載の最大のテーマですが、それを語る前にいろいろ整理が必要です。
まず相互扶助は、多くの共済会規約の冒頭で共済会の目的とされています。「相互扶助を通じて共済会員の福祉と幸福の向上に資する」といったものです。困っている共済会員に共済会員全員が負担したお金から給付するのが相互扶助です。働けなくて休業給付を受けたり、メンタル不全で長期に休業したり、さらには長期入院で医療費がかさんだり。そういった共済会員には手厚く給付されます。一方で共済会費は全員が同じように負担していることも忘れていけません。
__会費を払ってばかり、という会員も出てきますよね。
給付における相互扶助と公平性のバランスが求められるようになったと思います。かつての同質的な共済会員で構成された共済会ではないですからね。
__そうですよね。多様な生き方を認めあったうえで、共済会における相互扶助を再考すべきだと思います。
中途入社や短期勤務の共済会員からみれば、短期間における給付と負担はとてもアンバランスです。40歳で中途入社した共済会員は、結婚、出産、入学といった祝金はもらえず、親の死亡弔慰金だけかもしれません。同じ職場に勤務しているという連帯感が、このアンバランスを容認しているともいえます。
__どうすればアンバランスを和らげられるのでしょうか?
慶弔給付は特定のライフイベントに通過しないと給付されません。その意味では受動的であり、共済会員が能動的に給付を得ることはできません。それが不公平感を募らせるのです。つまり、受動的ではなく能動的に給付を受けられる共済会事業を取り入れればアンバランスは緩和します。私はこれを相互扶助に対して「自助支援」といっています。
__自分の意思で受けられるとなると、見方も変わりますね。「自助支援」とはいったいどんなものなのでしょうか。(次号につづく)
次号は「自助支援」の具体的な内容について伺います。
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