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投資の神様が警戒感を強めている。 日本経済新聞社の記事によれば、手元資金を積み上げているというのだ。

賢人バフェット氏の警鐘著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイが守りの姿勢を強めている。米景気が新型コロナウイルス禍かwww.nikkei.com

バフェット氏については、投資哲学やスタンス、購入している銘柄などを数多くの書籍・ニュースで紹介している。今後の経済情勢等に関する見立てについては是非そちらを参照して欲しいが、まっさらな状態でバフェット氏を見つめ直すと、素朴な疑問が1つわく。

「バフェット氏が投資するお金は一体どうやって集めているのだろうか?」

答えはバフェット氏が経営する会社(バークシャー・ハサウェイ)にある。実は、バークシャー・ハサウェイのメインビジネスは保険事業だ。つまり、保険事業で預かった保険料を運用しているのだ

保険に詳しくない人からすると?だと思うが、これは生命保険会社の収益源を知ることで理解が深まる。

<生命保険会社のビジネスモデルと三利源>
保険会社のビジネスモデルは、保険料を集めて、アクシデントに遭った人に保険金を支払うというものだ。それをもう少し詳しく図解すると次のようになる。

三利源

生命保険会社では、保険料収入の部分を除く、上記3点の予実が収益に大きく関与している。

①死差益(保険金支払いが想定よりも多かったか少なかったか)
予定死亡率によって見込んだ死亡率よりも実際の死亡率が少なかった場合、保険金支払いが減る。そのために発生する利益。

②費差益(諸経費が想定よりも多かったか少なかったか)
予定事業費率によって見込まれた事業費よりも、実際の事業費が少なくてすんだ場合に発生する利益。これはイメージしやすい。

③利差益(保険料の運用収益が想定よりも上がったか下がったか)
予定利率によって見込まれた運用収入よりも、実際の運用収入が多い場合に発生する利益。
保険会社は、保険料を基にした運用収益を見込んで、その分をあらかじめ保険料から割り引いておくのだが、その時の割引率が予定利率になる(なので単純に「割引率」とも呼ばれる)。

以上を生命保険会社の三利源と言うが、ちなみにライフネット創業者の岩瀬大輔さんの本では、「シサ、ヒサ、リサ」と覚えるといいと良いと書いてあった。

さて、バフェット氏の話に戻る。

以上みたとおり、預かった保険料を適切に投資することは保険料の決定に大きな影響を与えている。運用収益が高ければ高いほど、理論上はその分保険料を安く抑えることができる。

だが一方、お客様からお預かりした大切な保険料を運用して損したらどうするんだという意見の人もいる。ここから先は少し詳しい話になるので書ききれないのだが、もちろんそうならないよう適切なポートフォリオを組んでいるというのが答えになる。

ただ、歴史を振り返ると、似たような事は確かにあった。

それはバブル崩壊後に発生した。
バブル崩壊による影響で運用利回りが低下し、予定した利回りを確保できず、各生命保険会社が逆ザヤとなって破綻が相次いだことがある

逆ザヤとは、投資による実際の収益が予定利率を下回った状態をいう(利益差がマイナスの状態)。

もちろん予定利率を低く抑えていれば、大きな逆ザヤとなることはなかったのだが、バブル期は地価の高騰に伴う投資利益が好調だった。そのため、当時の保険会社は加入者を1人でも多く集めるためにも高い予定利率を設定していた(つまり、保険料の「割引率」を高く設定していた)

ご存知のとおりバブルが崩壊すると地価は下落し、それ以降の低金利の影響もあり、バブル期に計画していた投資利益を上げることは不可能になった。

その結果、バブル後に生命保険業界は一気に再編された。また、生命保険は長期契約前提のビジネスなので商品審査もかなり厳格化されたと聞く。
1998年には生命保険契約者保護機構も出来た。

今日、加入者保護が声高に叫ばれるのもこの時の砂鉄があってこそともいえよう。

なお、蛇足だが、最近保険業界で話題の少額短期保険は、少額で短期の保険に特化した規模の小さいミニ保険会社というべきものなので、経営の健全性を担保する観点から預かった保険料の積極運用は許されていない(預金・国債等リスクの低いもののみ)

以上みてきたが、保険会社のビジネスモデルの真骨頂は、集めた保険料をもとにそれを運用することにある。

先にあげたライフネット創業者の岩瀬大輔さんは、生命保険分野で起業することをハーバードの友人に伝えたところ、「君は日本のバフェットを目指すのだね」と言われたそうだ。

こんな風に保険業界を見直してみると、「保険分野で起業するの面白そうだな」と思う人、いないだろうか。