今回は、前回に引き続き、共済会収支の悪化を解決する方法をうかがいます。
――会員ごとに会費額が異なる“定率方式”だけでは収支対策が不十分なケースが多い共済会。さらなる対策にはどのようなものが考えられるのでしょうか?。
共済会の収支が悪化しても、会費の値上げや拠出金の引き上げは、会員の抵抗が大きく難しいですし、受益の大きい医療補償給付を削減するのは、不利益とみなされ変更は難しいでしょう。
――では反対意見の少ない給付の削減・廃止ということになりますか?あまり収支改善効果はなさそうに思えますが。
事例としては、共済会給付を母体事業主の制度として移管した共済会もあります。福利厚生制度とするわけです。これにより共済会の支出は軽減しますし、会員(従業員)の不満も出ません。注意しなければならないのは休業補償給付だけは事業主に移しにくいということです。
――なぜですか?
保険者の傷病手当金(業務外での病気やケガによる休業時に支給される)は休業中で給与が出ないから保険者から支給されるものです。事業主から休業補償給付が支給されると、その分、保険者からの傷病手当金が減額されてしまうことがあり、会員(被保険者)にメリットがないのです。
“カフェテリアプラン”というのを聞いたことがありますか?面白い事例では共済会で実施している事例もあります。
――カフェテリアプランは会員全員にポイントを付与して、そのポイントの範囲で福利厚生のメニューを選択・利用する形態ですよね。
はい。会員全体の中で、病気になる会員はわずかです。医療補償給付は一部の会員がその大半の受益を受けることになります。「困っている会員に他の会員から給付する」という相互扶助の典型例ですが、会費は全員が同じように負担しているので相互扶助と公平性がアンバランスなのです。
――確かに、大部分の会員は負担してばかりとなりますからね。
公平性と相互扶助のバランスを重視して、会員全員に同額のポイントを付与しカフェテリアプランを実施します。そうすれば、病気になった人は、ポイントを消化して医療費補助に充当することができます。大部分の会員は病気にならず医療費を使いませんから、他の福利厚生にポイントを消化することができます。
――他の会員に負担をかけることなく、医療費の補助を受けることができますね。
私が取り組んだ事例として、 会員数約3,000名ほどの地方自治体の職員互助会があります。地方公務員の職員互助会は、「公務員厚遇批判」が強まったことから交付金による財政援助が少なくなってきました。一方で会員が高年齢化し、医療補償給付の支出が増え、収支は悪化していました。見直し前の収支は、会費等の収入が1億3300万円である一方、給付を含む支出が2億2800万円と年間でおよそ1億円もの支出増となっていました。
――これは、とてつもない赤字幅ですね。
支出は、給付が1億300万円、補助金が8,300万円、運営経費は3,800万円という構造でした。そして給付のうち、医療補償給付が7,100万円を占めていました。給付の7割が医療給付だったのです。
――これでは医療給付の受益が大きいので、見直しには反対が大きいでしょうね。
しかも医療補償給付は相互扶助性が著しく高くなっていました。例えば年間5万円以上の給付を受ける会員は会員全体の2.3%とわずかでした。一方で医療補償給付が年間5,000円以下の会員は29.5%、まったく受けない会員が39.2%と偏っていました。
――だいぶ極端ですね。
不公平が存在する一方で給付の見直しは反対が大きく、膠着状態が数年続いた後、3年で過去の積立金も底をつく予測で、互助会は財政的に行き詰まる直前でした。
そこで補助金財源8,300万円、医療補償給付財源7,100万円の合計1億5,400万円をポイント財源に振替えてカフェテリアプランを導入することにしました。会員数は3,000名ですから、付与ポイントは会員あたり51,000Pt(1億5,400万円÷3,000名、1Pt=1円)となります。
このポイントを消化して、医療費補助だけでなく旅行補助、レク補助、スポーツ施設利用補助に充てることができるようになります。先ほどの通り、この互助会の会員7割は医療費を使いませんから、それ以外に充当することができます。
――これは医療補償給付を受けなかった会員も喜びますね。
医療費を使った会員は年間5万円相当を医療費補助に充てることができます。年間5万円以上医療給付を受けてきた会員は全体の2.3%でしたので、残りの97.7%の会員は医療費をポイントの範囲内で賄えることになります。2.3%の方は年間5.1万円を超える医療費は自己負担となりました。
――ほとんどの会員がプラスになる制度の見直しですね。
2.3%の会員はこれまでかかった医療費は、ほとんど互助会からの医療補償給付で取り戻していたため、医療機関にかかることをためらうことはありませんでした。これは疾病の早期受診としては有効ですが、医療費の無駄となることもあり得ます。制度見直し後、受診に慎重になり年間医療費5万円以上の会員は1%以下にまで減りました。
――制度を見直すことで、医療費のかかる「ヘビーユーザー」が1/2以下になったということですね。難しい課題でも解決方法は探せばあるものなのですね。