サブスクが全盛期を迎えている。 何を隠そうサブスクは私もかなりトライしてきた。月額制で毎月ワイン一杯無料、毎日コーヒー一杯無料、あげくは毎日おにぎり1つ無料なんてのもやった。言うまでもなく、毎日おにぎり1つ無料は界隈で激しくバズった。 「原価一定」で収益が際限なく拡大するサブスクは数式との相性が良いため、関係者への説明のし易さとも相まって流行すべくして流行している。
さて、ビジネスモデルだけみると、どうやら保険もサブスクの一種として考えられなくもない。いやむしろサブスクの計算式がバッチリ当てはまる。
月額保険料×顧客獲得数×契約期間に対して、顧客獲得コストがいくらで、支払い保険金がいくら、、、、という具合いだ。
しかも保険商品はワードファイルに「約束事を書く(=約款をつくる)だけ」だ。ネットフリックスのように大枚はたいてコンテンツを作る必要がない。
それをもって保険は究極のサブスクだという人も多い。
前置きが長くなったが、保険業界の多くの人々は保険はサブスクなのか?と疑問を感じている。いやむしろちょっとした嫌悪感を抱く人が多い。なぜか。
答えは、保険というものが有する公益性、すなわち加入者保護にある。
保険のビジネスモデルを極めて単純化すると、
保険料一保険金=利益
となる。保険料と保険金の2点に分けて考えてみよう。
保険料
保険料は言うまでもなく、理論的には無限に集めることができる。サブスク的には集めたら集めた分だけ利益は拡大する。
ただ、留意すべきなのは、保険料を集めること=万一のときに保険金を支払う約束をすること、だ。
保険金
さて問題は保険金だ。
よくあるリスクについては、長年の経験から安定したリスクを把握できているので、その数字をベースに保険料を算出している。
とはいえ、お察しのとおり、地震やパンデミックのように一気に支払いが集中すると保険会社の経営の屋台骨を揺るがしかねない事態となる。
もちろん保険会社だって再保険手配によるリスク分散などを図っている。
が、近年の異常気象、パンデミックに代表される不確実性の高さは、保険の原価=事故の発生確率さえも大きく塗り替える可能性がある。
一方、テクノロジーの扱いも難しい。テクノロジーが日進月歩で発展することは、保険の原価そのものをあらかじめ正確に把握することを困難にする。
例えば、医療分野でテクノロジーが進歩したことで肝臓がんの切除部位を3D画像で予測する方法ができたそうだ。正確な手術を可能にするだけでなく、再発時には、前回切除した部分が他の臓器と癒着することにより切除すべき境界線が見えにくくなる問題も解決できるという。
上記の手術を受けた方が、もし従来よりも生存確率を高めることが可能ならその人の死亡確率は下げるべきだろうし、再発時にも安定した手術結果を残せるのであれば医療保険引受条件の緩和にもつながるかもしれない。
しかし、新しい技術は十分なサンプル数を確保していると言い難いものも多く、往々にして正しい評価がし難い。
こうしたテクノロジーの進歩の1つ1つが、本来であれば保険料計算に影響を与えうる。しかし、そのようなわけでどうしても保険料は保守的になる。つまり保険料はある程度のバッファをもって見積もらざるを得ない。
こうして最適な保険の原価 (保険金をいくら支払うのか)は見えにくくなる。
極端な話、新しいリスクについては、保険の原価はもはや「やってみなければ分からなくなる」(=事故確率は事後的に分かるということ)。
いずれにしても、保険業界の人たちはリスクが集中した時を想定する。
リスクが集中すると、商品を売り止めすることや、最悪の場合は保険会社そのものが倒産することになるからだ。
もし倒産ともなれば、加入者は、万一のときのために保険料を支払っていたのに、万一のときに保険金が支払われないという最悪のユーザ体験をすることになる。
だからこそ保険は規制業種として監督されているわけだ。
万が一のときに保険金を正しく支払うのは極めて公益性が高い。もちろんサブスクが公益性の低いビジネスという訳では無いが、保険業界の人たちはそこに矜持を持っている。
毎日おにぎり1つ無料のサブスクを始めたが、契約農家のお米が天候不順で不作のため今日だけはおにぎりが出せません、という言い訳は弁解の余地が多少あるかもしれない。
一方、大地震が発生した際、生きるか死ぬかの状態の人を目の前にして、保険会社が「家屋倒壊が相次いだので保険金支払い原資が足りないためお支払い出来ません」とは絶対に言えないし、言わない。
*保険金支払いについては保険業界で語り継がれている伝説が多々ある。
このあたりの感覚が、保険マンをして保険をサブスクに例えることに対する違和感を持つことにつながっている。
でもなんだか解決策がありそうな気がしないでもない。
例えば非常時に必要なのはお金じゃなくて共助だ。お金を支払うことはワンノブゼムだ。
お金の支払いに拠らないセーフティネットを考える余地は、加入者ニーズから考えても十分あり得るんじゃないだろうか。
AかBかの極論ではなく、その間にこそイノベーションがある。
その鉱脈を探し当てるのは僕らInsurTechスタートアップに違いない。